バスキュラーアクセス(シャント)とは

ABOUT VASCULAR ACCESS

腎臓の機能が悪化してくると本来おしっことして排出される血液中の余分な水分や老廃物(尿毒素)が体内に蓄積して、尿毒症や心不全となり、そのまま放置しておくと、致命的になる恐れがあります。そのため腎臓の機能が低下した場合には腎代替療法という治療が必要となります。腎代替療法には大きく分けて3つあります。血液透析腹膜透析腎移植です。ここでは血液透析について説明します。

血液透析とは機能が低下した腎臓の代わりに体内に溜まった余分な水分や老廃物をろ過する治療です。具体的には、腕の血管に針を刺し、1分間に150~250mlほどの血液をとり、透析器(ダイアライザー、ろ過する機械)で血液中の老廃物を取り除き、きれいになった血液を再び体内へ戻します。これを1回につき3時間から5時間続けて行い、通常は1週間に3回定期的に行います。

しかし、普通に腕の静脈に針を刺しただけでは、そこに流れている血液の量が少ないため、十分な透析治療ができません。逆に腕の動脈には十分な血液が流れており、動脈に針を刺せば透析を回すだけの血液が得られます。しかし、動脈は深いところを走っているために表面から見えず、簡単に刺すことが出来ません。そこで、手術にて動脈と静脈をつないで、静脈に流れる血液量を多くして、そこから血液をとる方法が開発されました。このつないだ血管をわたしたちはバスキュラーアクセス(シャント)と呼んでいます。

バスキュラーアクセスは非生理的な血流であり、様々なトラブルが発生することがあります。バスキュラーアクセスのトラブルは患者さんを苦しめるだけでなく、適切な血液透析療法を困難にします。
そのため安定した透析を行うためには良いバスキュラーアクセスが必要不可欠となります。バスキュラーアクセスの種類は、2008年の統計では自己静脈内シャント90%、人工血管内シャント7%、動脈表在化2%、透析用カテーテル1%となっています。血液透析を受けている患者さんの97%が内シャントでの透析であることから、バスキュラーアクセスとシャントはほぼ同意味となっています。

上肢の血管について

BLOOD VESSEL

シャントは腕の動脈と静脈を使って作ることが一般的です。図に、シャントに使う腕の血管の走り方とその名前を示しておきます。今後の説明の参考にしてください。

バスキュラーアクセスの種類

TYPES

バスキュラーアクセスには以下に示した4つの種類があります。

  1. 自己血管内シャント
  2. 人工血管内シャント
  3. 上腕動脈表在化
  4. 透析用カテーテル

前腕(肘より先の部分)によい動脈と静脈があれば、それらを縫い合わせて作製する自己血管内シャントがもっとも良いものです。一般的にこのシャントは5年後も90%以上の患者さんで使い続けることができます。問題は両側とも前腕によい動脈と静脈がない場合です。この場合はやむをえず人工血管を移植してシャントを作製します。すなわち、どのようなシャントができるかは患者さんの動脈と静脈の質によって違ってきます。

ほとんどの場合は術前の診察とエコー検査にて判断できますが、時には手術中に動脈や静脈が悪いことがわかり、術式を変更することもあります。そのため、最終的には手術中の血管の所見によって手術術式を決めることとなります。

シャントを作る場合は、原則まず利き腕ではない腕に作ります。(透析中は穿刺されている腕はほとんど使えません。そのため利き腕にシャントを作ると透析中何かと不便です。)
そのため、最初は可能な限り利き腕でない側の前腕に自己血管内シャントを作ります。しかし、利き腕でない腕の血管が悪い場合は、利き腕で自己血管内シャントを作ることもあります。

現在のガイドラインではまずは自己血管内シャントの造設を第一選択とし、これができない場合に人工血管内シャントへの変更を考えます。部位もなるべく前腕から造設し、これが悪くなった場合に上腕に変更したり、対側の上肢に変更したりします。両上肢ともシャントが造設できない場合は鼠径部(脚の付け根)の大腿動脈と静脈を用いてシャントを作ります。この場合は人工血管内シャントとなります。

①自己血管内シャント

もっとも代表的なシャントです。

前腕で橈骨動脈と橈側皮静脈あるいは正中皮静脈と吻合して作るものが一般的です。変法として親指の付け根で橈骨動脈と橈側皮静脈を吻合するタバチエール内シャントもあります。また、肘で上腕動脈と正中皮静脈を吻合して作ることもあります。動脈と静脈をつなぐと皮下の静脈に多くの血液が流れ、静脈が太くなります。この静脈を穿刺して透析を行います。このシャントが、通常、最もつまりにくく、長期間に渡って使うことができます

このシャントの注意点としては、作ってもすぐには使えず、太くなるまで通常2-4週間待つ必要があることです。そのため、腎臓の機能が低下してきたら、あらかじめ、早めに自己血管内シャントを作って、血液透析に備えておくことが大事です。

②人工血管内シャント

前腕に使用できる表在静脈がない場合、代用血管を皮下に埋め込んで内シャントを作製します。代用血管としては素材別でe-PTFE(延伸ポリテトラフルオロエチレン)、ポリウレタンの人工血管が一般的に使用されています。

e-PTFEの人工血管は従来最も多く使われた人工血管ですが、手術後3~4週間は穿刺ができないことが問題でした(最近では早期穿刺可能なものもあります)。一方、ポリウレタンによる人工血管は、手術後すぐに穿刺ができるため、現在では多用されるようになってきています。

透析はこの人工血管を穿刺して行います。自分の静脈が細く、穿刺がうまくいかない人にとっては、人工血管の方が刺しやすく、楽になることも多いです。

一方、人工血管を穿刺すると穴が開いてしまうため、2~5年位で荒廃してきます。また、人工物のため感染も問題になり、一旦感染してしまうと取り除かないといけなくなることも多いです。人工血管と静脈の吻合部が狭くなりやすく、これが閉塞の原因となることもあります。

このように、一般的には人工血管内シャントは自己血管内シャントと比べて寿命が短いため、できるだけ自己血管内シャントを作ることを考えます。
しかし、上肢に良い静脈がない場合は、やむをえず人工血管内シャントを作ることになります。

③上腕動脈表在化

心臓の機能が悪い場合やシャントを作製できない場合、また、シャント不全になった時のバックアップ用に作製することがあります。

具体的には、肘より少し上の所で深いところにある上腕動脈を筋膜より浅いところにもってきて、これを直接穿刺できるようにするものです。動静脈を吻合したり、人工血管を使ったりする必要はありません。そのため、手の血行障害の心配や心臓への負担もありません

しかし、3~4年の穿刺によって動脈が瘤のようにふくれてしまうことが多く、これを手術して治す必要が出てくることがあります。また、血液を返すための静脈が荒廃して、刺せなくなってしまうこともあるため、限られた患者さんで使われることになります。

④透析用カテーテル

透析用カテーテルにはカフ型カテーテル(長期留置カテーテル)非カフ型カテーテル(短期留置カテーテル)があります。どちらもカテーテル(管)を首または足の付け根の太い静脈から挿入します。短期留置カテーテルはシャントが詰まって使用できない間やシャントが発達するまでの間、一時的に使用するものです。長期留置カテーテルはシャントの状態や心臓の機能が悪く、シャントを作れない方に入れます。

首の血管から挿入する場合、短期留置カテーテルは首の近くから管が出るのに対して、長期留置カテーテルは皮下を通す管の長さが長く、管を胸辺りから出します。こうすることで感染の危険性を減らします。透析の度に針を刺さなくてよいのですが、常に胸から管が出ていることになります。つまり易い、感染しやすいというデメリットがあります。

日本のバスキュラーアクセスの現況

内シャント動脈表在化外シャントその他
自己血管人工血管
1998年91.4%4.8%2.5%0.2%1.1%
2008年89.7%7.1%1.8%1.4%
2011年の「慢性血液透析用バスキュラーアクセスの作製および修復に関するガイドライン」より

上表のように、1998年と比べて人工血管内シャントが増えたものの2008年の時点ではシャントの多くは自己血管内シャントであり、人工血管内シャントは7.1%しかありませんでした。

しかし、糖尿病性腎症の増加、透析導入年齢の高齢化、透析期間の長期化により、自己血管にてシャントが作成できない症例が増えてきており、現在人工血管の使用頻度はさらに多くなっていることが予想されます。

手術について

OPERATION

麻酔

腕に作る場合は通常局所麻酔で行います。当院では神経ブロックを積極的に併用し、なるべく痛みを感じないよう治療しています。手術後に痛いときは鎮痛剤を飲んでいただきます。これも数日のうちにおさまってくるのがほとんどです。

手術時間

手術に要する時間は、自己血管内シャントの場合は1時間~1時間30分、人工血管を使用する場合は2時間がおおよその目安です。手術法、体格、血管の状態により大きく異なってきます。

手術直後の合併症

手術の最大の問題点は、作ったシャントがつまってしまうことです。このときには再手術を行います。局所麻酔薬に対するアレルギーや術後の出血創腫脹感染も心配される合併症です。場合によってはシャントのために心不全手の先の血行障害が起こることもあります。感染予防のため、抗生物質を数日間服用してもらいます。基本的に抜糸までは2週間を要します。

良いシャントとは

CONDITION

正常のシャントではシャント血管の上にそっと手を置くと「ザーザー」と血の流れる感じ(スリルと呼ばれています)がします。動脈との吻合部周辺を除き、シャント血管が「ドクンドクン」と拍動性に触れることは通常ありません。また、シャントを聴診すると、自己血管内シャントでは吻合部からシャント静脈に沿って、人工血管内シャントでは動脈側吻合部→人工血管→静脈側吻合部→静脈に沿って比較的低音の「ザーザー」というシャント音が認められます。シャント音が聞こえないことはありません。

シャント側の手は対側に比べて若干の熱感はあるものの、あまり腫脹することはなく、色調も大きくは違いません。また、指先が少し冷たいことはあっても、しびれ感、疼痛を訴えることもありません。透析中は十分に透析の血流(通常150-250ml/分)がとれ、静脈圧も低くなければなりません。静脈圧の目安は、血流量200ml/分で17ゲージの針で穿刺してある場合、自己血管内シャントで100mmHg以下、人工血管内シャントで150mmHg以下です。

もし、これら以外の症状・所見があれば何らかの異常がシャントにあると考える必要があります。

シャントの日常管理

SELF CARE

シャントがあっても生活の制限はほとんどありません。しかし、シャントの腕は腫れやすいので指輪や腕時計は避けたほうが賢明です。シャントの腕に重いものをぶら下げたりもしないでください。また、シャントのある腕にけがをすると大量に出血する恐れがあるため、外傷には気をつけてください。穿刺をして透析をした日は入浴できませんが、翌日は通常問題ありません。シャントの感染を防ぐためにシャントのある腕を清潔にしておいてください。人工血管が肘をまたいで埋め込まれているときは、腕枕のように長時間肘を曲げたままにしないでください。穿刺部からの出血を止めるための止血バンドは血が止まり次第なるべく早く外してください。

シャントの寿命および再手術

LIFESPAN AND REOPERATION

シャントは透析ごとに血液を取り出す所と返す所との2ヶ所を穿刺されます。これを週に3回するため、1年(52週)では約300回穿刺されることとなります。そのため、シャントの血管は徐々に荒廃してきます。その結果、シャントの一部が狭くなったり、つまったりします。

シャントの一部が狭くなると透析の血流不足静脈圧の上昇シャント肢の腫脹などが見られます。
この時はシャントのエコー検査や造影検査を行い、PTA(バルーンによる拡張術:風船を付けたカテーテルで狭いところを広げる)あるいは手術で治すことになります。また、つまった時は、シャント音やスリルがなくなります。このままでは透析ができないため、緊急にカテーテル手術や外科手術をして治します。どのように治すかはシャントの閉塞の原因、シャントの状態、残った動静脈の状態によって決めます。治療法については後述します。

シャントの寿命を左右する因子は種々有りますが、糖尿病を合併している場合や高齢者ほど開存率が低くなる傾向にあります。これは、血管病変や動脈硬化を有することと関係しているからだと考えられます。この他に心臓の合併症を有している患者さん、長期にわたる療養により注射や採血で末梢の静脈系が荒廃している患者さん、皮下脂肪が多く血管の細い女性の患者さんなどのシャントの寿命が短いと言われています。前勤務先におけるデータでは、きちんと管理された自己血管内シャントは5年で92%が使用可能でした。一方、きちんと管理された人工血管内シャントは3年で83%、5年で76%が使用可能でした。このように、人工血管内シャントと比較して、自己血管内シャントの方が長く使用できます。ただし、きちんと管理しないともっと早く使用できなくなることが多いです。

ここからはシャントの合併症と治療法について解説いたします。

シャント関連の主要合併症

COMPLICATIONS

シャント狭窄

シャントの血流不足静脈圧の上昇シャント肢の腫脹が見られた場合、狭窄を疑いシャントエコーまたはシャント造影を施行します。狭窄が認められればPTAあるいは手術が必要となります。

シャント閉塞

シャントがつまってしまって中の血の流れが止まった状態のことを言います。

シャントの代表的な合併症ですが、対応を誤るとその後のシャントの予後を左右します。閉塞は突然生じる場合徐々に血管が狭窄して血流が低下し、閉塞する場合が有ります。

シャント感染

内シャントの場合は手術創の感染と穿刺に関連した感染があります。自己血管と人工血管を比較すると圧倒的に人工血管が感染を起こす率が高いことがわかっています。シャント感染が起こると、局所は赤く腫れ熱を持ち痛みが生じます。

早期ならば、抗生物質の投与でなおることがあります。
しかし、ほかっておくとシャント感染から敗血症になり生命に危険が及ぶことがあるため注意が必要です。人工血管が感染した場合は原則的に手術して感染した人工血管を切除します。

スチール症候群

動脈血がシャント部より中枢に大量に流れ帰ってしまい、末梢に十分血液が流れず、指先に血行障害を起こした状態を言います。症状として冷感蒼白化しびれ疼痛さらには手指先端の壊死が出現します。

症状が強い場合には、手術でシャントの血流を落とすか(シャント血流抑制術)、PTAなどを行ったりしますが、場合によりシャントを閉鎖して他の場所に新しくシャントを作ることもあります。

静脈高血圧症

静脈高血圧症とはシャントの心臓に近い部位の静脈になんらかの理由で狭窄、閉塞が生じると起こってくる症状のことを言います。病変が比較的末梢レベルに生じた場合には手背にうっ血浮腫が出現するsore thumb syndromeと呼ばれる状態になります。

一方、腋の静脈よりも心臓側に血管病変が存在する場合には腕全体が腫脹します。対策として病変部位をPTAにて拡張します。しかし、完全に閉塞していて拡張出来ない場合や、病変が硬くて拡張出来ない場合には手術にて治療します。

病変が末梢にある場合には、その中枢でシャントを作り直し、中枢側で手術が困難な場合には、残念ながらそのシャントを閉鎖する必要があります。

シャント瘤(真性瘤、仮性瘤)

真性瘤:シャント血管が大きくこぶ状に膨らんだ状態をシャント瘤(シャント血管瘤)と呼びます。
穿刺を繰り返した箇所にできたり、すぐ中枢に狭いところがあるために圧が上がってできたりする場合があります。

仮性瘤:人工血管は穿刺により壁の線維の断裂が起こります。
通常は圧迫止血により修復されますが、同一部位の反復穿刺などにより大きな断裂が起きてしまうと、穿刺部位周囲に血腫が形成され仮性瘤が発生すると考えられています。
自己血管内シャントでもできることがあります。

どちらの瘤も、皮膚のしわがなくなって皮膚が光沢を帯びる場合や瘤が急激に膨張する場合、じわじわと出血する場合などは大出血をきたす可能性があるため手術治療が必要になります。

血清腫

人工血管としてe-PTFEを使用した場合、血液が人工血管内を流れ始めた時点である程度の血漿が壁から漏出するのは避けられません。しかしほとんどの場合内腔に形成される薄い膜や周囲組織との器質化より、血漿の漏出は次第に止まります。この漏出が持続し、漏出液が人工血管周囲組織内に貯留し、嚢胞状となったのが血清腫とよばれるものです。

根治的治療としては手術で腫瘤および人工血管を摘出し、別の素材の人工血管に取り換えます。ソラテックは素材がe-PTFEとは異なるため血清腫の形成はありません。

内シャントの過剰血流

シャントが流れている状態では、心臓への還流量が通常よりも慢性的に増えております。この流れる量が透析に必要な量を超えて流れると、患者さんによっては、シャントが心臓に負担をかけ心不全を発症する場合があります。

また、シャントに流れる血流が大きくなると、全身のほかの部位への血流が減少して、下肢の冷感便秘症など全身のスチール症状が出現することもあります。症状が強い場合はシャントの流れを落とす手術(シャント血流制御術)が必要になってきますが、場合によってはシャント閉鎖が必要となることがあります。

バスキュラーアクセス治療について

VASCULAR ACCESS INTERVENTION

①シャント狭窄の治療法

シャント血管に狭窄(せまくなる)や閉塞(つまる)が起きると針を刺しても血液が十分とれず透析ができなくなります。この場合バルーンカテーテル(風船の付いたカテーテル)を用いてシャント血管の問題を治すことで、透析が可能となります。この治療をPTAと言います。

当院では、透視装置による被曝の問題や造影剤使用によるリスクを考慮し超音波装置(エコー)を使用したPTAを積極的に行っております。

このPTA治療は広く行われていますが、再狭窄のためPTAを繰り返すケースも少なくありません。患者さんがより長期間にわたって同じ内シャントを使って透析治療を継続するため、再狭窄までの期間を延長させるよう様々な試みがなされてきました。

その中の一つである薬剤コーティングバルーンが自己血管内シャントに限って2021年2月から使用できるようになりました。薬剤コーティングバルーンは風船の表面に薬剤(抗がん剤)が塗布されており、拡張した静脈の内膜に薬を塗ることで、内膜肥厚(血管の壁が厚くなって内腔が狭くなる)を抑えて、再狭窄を遅らせます。薬剤コーティングバルーンで治療された患者さんは、標準的なPTAで治療された患者さんと比較して、術後6ヵ月時点における開存率が高く、かつ内シャントの再狭窄部位への再治療回数が56%少ないことが示されました。

他に、人工血管内シャントにおける静脈の狭窄に対してはステントグラフトが2021年4月から使用できるようになりました。ステントグラフトとはステント(バネ状の金属)と人工血管を組み合わせたものであり、カテーテルにより狭窄した静脈の内側に張り付けて再狭窄を抑制します。ステントグラフトにより治療された患者さんは、標準的なPTAで治療された患者さんと比較して、術後6ヵ月時点における開存率が48%高いというデータが示されました。

当院では透析患者さんの身体的・精神的負担を低減しつつ、シャント維持に貢献するためにも、患者さんの状態に応じて必要と判断した場合はこれらの新しい治療法を積極的に取り入れております。

②シャント閉塞の治療法

前にも述べましたように、どのように治すかはシャントの閉塞の原因、シャントの状態、残った動静脈の状態によって変わってきます。

1.自己血管内シャント閉塞治療

自己血管内シャントの閉塞の原因としては、動脈と静脈の吻合部が狭くなったり、頻回の穿刺によって静脈が狭くなったりすることが一般的です。

最近では血管内手術(カテーテル手術)の治療技術の向上により、皮膚を切らず治療できることが増えてきていますが、状況によっては手術にて治療します。血管内手術ではカテーテルにより血管内の血栓を吸引または溶解してから、前述したように閉塞の原因となった狭窄病変をPTAします。手術にて治療する場合、前腕にまだ良い静脈が残っていれば、中枢にあがって再度動脈と静脈を吻合してシャントをなおします。

中枢に適切な静脈がなければ、前に述べたような人工血管を使った内シャントを作ることになります。

2.人工血管内シャント閉塞治療

人工血管内シャントの閉塞の原因としては、人工血管と静脈との吻合部が狭くなることがもっとも多いことがわかっています。そのため、閉塞したシャントの血栓を血管内手術にて吸引または溶解するか、外科的に人工血管を切開して直接血栓を除去して血流を再開させます。

しかし、閉塞の原因となった病変を残すと再度閉塞するため、狭いところをPTAします。先述したように2020年6月からステントグラフトが人工血管内シャントの狭窄に対して使用できるようになりました。これを使用すると、通常のPTA治療のみの患者さんと比べ、良好な開存成績が得られると報告されています。当院でもこのステントグラフトは使用可能であり、患者さんの状況に応じて使用しています。

しかし、ステントグラフトやPTAでは治療困難な場合はあとの図のように手術にて人工血管を継ぎ足して治療します。

手術治療ではこのようにして静脈吻合部に人工血管を追加移植して内シャントを治します。何回か直しても再びつまってしまう場合は上腕に新しく人工血管内シャントを作ります。

以上バスキュラーアクセスについてご説明いたしました。バスキュラーアクセスのトラブルは再手術により患者さんを苦しめるだけでなく、適切な血液透析療法を困難にします。安定した透析を行うためにはよいバスキュラーアクセスが必要不可欠です。

何か不安や疑問がありましたら、まずは透析施設のスタッフにご相談ください。
必要であれば当院を紹介していただけます。